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京都地方裁判所 昭和44年(手ワ)191号 判決

当事者参加人

京都硫酸販売株式会社

代理人

表権七

熊谷康次郎

原告

田中光子

代理人

原田甫

被告

佐々木化学薬品株式会社

代理人

表権七

熊谷康次郎

主文

参加人の参加の申立を却下する。

訴訟費用は参加人の負担とする。

理由

一、本件独立当事者参加の申出は、原告(本件約束手形の所持人)が被告(本件約束手形の振出人)に対し本件約束手形金の支払を請求する民事訴訟法第四四四条所定の手形訴訟(当裁判所昭和四四年(手ワ)第三七号約束手形金請求事件)を提起し、被告が表権七および熊谷康次郎両弁護士を訴訟代理人に選任し、原告と被告との間に右手形訴訟が係属中に、被告訴訟代理人表権七および熊谷康次郎両弁護士が、独立当事者参加人の訴訟代理人として、「独立当事者参加人は、被告より本件約束手形の振出交付を受けた後、窃盗犯人により本件約束手形を窃取された者であり、原告は、悪意又は重大なる過失により本件約束手形を取得した者である。したがつて、独立当事者参加人は、本件約束手形の権利者であり、原告は、本件約束手形の権利者でない。」と主張し、原告および被告に対し、「独立当事者参加人が本件手形の権利者であることを確認する。」、原告に対し、「原告は独立当事者参加人に対し本件手形を引渡せ。」との判決を求める民事訴訟法第七一条の独立当事者参加の申出である。(民事訴訟法第七三条第七一条の独立当事者参加の申出ではない。)

二、1、甲の乙に対する民事訴訟法第四四条所定の手形訴訟係属中に、第三者四丙は、「丙は、甲より、本件手形の裏書譲渡を受けた者(又はその後者)である。」と主張し、甲および乙に対し、民事訴訟法第四四四条第一項所定の「手形ニ因ル金銭ノ支払」を請求する民事訴訟法第七三条、第七一条の独立当事者参加の申出をなしうると解するのが相当である。

2、しかし、甲の乙に対する民事訴訟法第四四四条所定の手形訴訟係属中に、第三者丙は、「丙は、窃盗犯人により本件手形を窃取された者であり、甲は、悪意又は重大なる過失により本件手形を取得した者である。」と主張し、甲および乙に対し、「丙が本件手形の権利者であることを確認する。」、甲に対し、「甲は丙に対し本件手形を引渡せ。」との判決を求める民事訴訟法第七一条の独立当事者参加の申出をなしえないと解するのが相当である。けだし、独立当事者参加による訴訟は、同一の権利関係について、原被告および独立当事者参加人の三者が互に相争う紛争を一の訴訟手続によつて、一挙に予盾なく解決する訴訟形態であるから、独立当事者参加人の請求は、本訴の請求と同種の訴訟手続によつて審理しうるものでなければならないところ、丙は、甲および乙に対し、民事訴訟法第四四四条第一項所定の「手形ニ因ル金銭ノ支払」を請求していないし、又これを請求しうる者ではないからである。

3 したがつて、本件独立当事者参加の申出は、手形訴訟に対する独立当事者参加の要件を欠き、不適法である。

三、1、手形訴訟係属中になされた独立当事者参加の申出が、手形訴訟の両当事者に対し民事訴訟法第四四四条第一項所定の「手形ニ因ル金銭ノ支払」を請求するという要件を欠くため、不適法である場合、独立当事者参加の申出の右の不適法性は、消滅する、と解するのが相当である。

2、本件独立当事者参加の申出以後、原告の被告に対する手形訴訟は、原告の申述により、通常訴訟に移行した。

3、したがつて、本件独立当事者参加の申出の右の不適法性は、消滅した。

四、1、甲の乙に対する手形金の支払を請求する通常訴訟が係属中、乙の訴訟代理人Aが、丙の訴訟代理人として、「丙は、窃盗犯人により本件手形を窃取された者であり、甲は、悪意又は重大なる過失により本件手形を取得した者である。」と主張し、甲および乙を相手方としてなした民事訴訟法第七一条の独立当事者参加の申出は、不適法である、と解するのが相当である。けだし、(1)、乙と丙とは、訴訟の勝敗について利害相反する関係に立つ対立当事者であるから、右独立当事者参加の申出のうち、乙および丙の双方の訴訟代理人を兼ねているAが、丙の訴訟代理人として、乙を相手方としてなした部分は、双方代理行為として、無効である、と解するのが相当であり、(2)、独立当事者参加の申出は、つねに、原被告双方を相方としなければならず、一方のみを相手方とすることは許されない(最高裁判所昭和四二年九月二七日大法廷判決、民集二一巻七号一九二五頁)から、右独立当事者参加の申出のうち、双方代理の関係にない甲を相手方とする部分のみを、適法と認めえないからである。

2、したがつて、本件独立当事者参加の申出は不適法である。

五、1、甲の乙に対する手形金の支払を請求する通常訴訟が係属中、乙および丙の双方の訴訟代理人を兼ねているAが、丙の訴訟代理人として、乙および甲を相手方としてなした民事訴訟法第七一条の独立当事者参加の申出のうち、乙に対する部分の双方代理行為に基く無効は、その行為の性質から考えて、実体法上の双方代理行為と異なり、乙および丙の事前の承諾によつては、有効とならず、Aが乙および丙の双方の訴訟代理人を兼ねているという双方代理関係が解消された後、丙又はその訴訟代理人が、Aの無権代理行為を追認することによつてのみ、有効になる、と解するのが相当である。

2 本件において、表権七および熊谷康次郎両弁護士が被告および独立当事者参加人の双方の訴訟代理人を兼ねているという双方代理関係は、現在にいたるまで、解消されていない。

六よつて、本件独立当事者参加の申出を不適法として却下し、民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり、判決する。 (小西勝)

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